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タイトルレーダー射撃の概要
記事No2260
投稿日: 2005/05/26(Thu) 02:18
投稿者射撃用レーダー
みなさん、こんにちは。

以前、「ヒストリカル・ウォーゲーム会議室」で話題になったレーダー射撃の精度について、資料を再び読み返してみました。
その結果、以前の議論で我々が見落としていた点が色々と見つかってきました。私自身、あの時の議論では十分に説明できなかった点や、認識不足だった点が色々と見つかったのです。
今回、一度終わった議論を蒸し返すようで恐縮なのですが、上記の事情をご理解に上、再度発表させて頂く事をお許し下さい。

ちなみに問題する資料は、以前に梅王子さんが「ヒストリカル・ウォーゲーム会議室」No.4581でご紹介頂いた以下の資料です。
資料の内容は艦砲用FC(射撃管制用)レーダーの説明で、当時の主要なFCレーダーであるMK−13について、その性能及び操作上の注意点が記載されています。MK−13について説明すると、米国海軍がWW2中に実用化した対水上射撃管制用レーダーです。WW2での実戦使用例について私は詳細を知りませんが、MK−13の前期モデルとも言うべきMK−8レーダーは、レイテ沖海戦等で実戦に使用され、高い有効性を示しています。

http://www.eugeneleeslover.com/USNAVY/CHAPTER-20-G.html


1.資料の性質
 まず「この資料って一体何なの」という点について調べてみました。明確な答えは見つからなかったのですが、どうやら米国海軍の教育用教材のようです。初版発行が1950年。本文中に「現代の巡洋艦は大半が・・・」という記載もあるので、恐らく1950年前後の状況を記した資料でしょう。メーカー取説等ではないことは確かです。

2.測角性能
 ビーム幅0.9度(16ミル)のレーダーがどのような手段で「公称2ミル以内」という測角精度を実現しているか、という点について。この件については議論当時、私も明確な方法を確認できなかったのですが、今回資料を読み返してみて、概ね以下のようなものではないかと結論付けました。
 ここで簡単な想定問題を用意しました。まずMK−13がビーム幅16ミルの理想的な円錐形状の電波を出すと仮定します。ここでMK−13がある方位の目標を捜索するとします。目標の見かけの大きさを無視できると仮定した場合、アンテナ方位が目標の方位角から±8ミルの範囲で、レーダーが目標からの反射信号を受信します。
 (例1)目標方位角が10度の場合、反射は10度±8ミルで得られます。
 (例2)目標方位角が10.1度の場合、反射は10.1度±8ミルで得られます。
 これをBスコープ上で観測すると、目標映像は常に目標の正しい方位角から左右±8ミルの範囲に広がったエコーになります。操作員は目標エコーがBスコープ中心付近に位置するように方位盤の向きを調整します。目標エコーがベアリングラインで丁度2等分されるような方向に方位盤を向けたとき、方位盤は目標の正確な方位を示すことになります。
 もうおわかりでしょう。「測角性能はビーム幅とは直接関係」ないのです。確かに目標映像はビーム幅の影響により左右に広がった像を示しますが、目標の正しい方位は常に目標映像の中心付近に存在しているのです。目標の中心位置を目分量で読み取ることができれば、ビーム幅を超える測角性能を実現するのは容易なことなのです。
 測角性能に影響を及ぼすファクターとしては、ビーム幅よりも、むしろアンテナ回転とBスコープの同調精度、表示器の分解能などの方が重要であると考えます。資料には「アライメントが良好ならば測角精度がさらに向上する」と書かれていますが、上記の考察を進めれば「なるほど」と納得できた次第です。

3.分解能
 ビーム幅の議論は計測精度ではなく、むしろ分解能に影響すると考えたほうが良さそうです。
 先程と同様、MK−13が幅16ミルの理想的な円錐形状の電波を出すと仮定します。この時の目標映像は16ミルの幅に広がります。実際には目標の見かけの大きさがありますから、エコーの大きさはもっと大きくなります。
 次に2つの目標が極めて近接した状況を想定しています。2つの目標が距及び方位の両面で極めて近接している場合、2つの目標エコーがBスコープ上で重なって見えることになります。これが分解能の限界です。
 しかしこのことは必ずしも「16ミル以内の近接目標を分離することは絶対不可能」という意味ではありません。
 考えて見てください。単一目標のエコーは横に置いた米粒のような形をしています。もし2つのエコーが重なって見える場合、米粒が2つ重なったような形状を示します。それは恐らく非対称でいびつな形状になるでしょう。2つの目標が余程よほど極端に近接していない限り、いびつな形のエコーを見れば、2つの目標を分離識別することは容易です。すなわち2つの目標が極端に近接していない限り、レーダーの分解能以上の分解能を得ることは、容易なのです。
 そして資料は「熟練した操作員は受信機感度を調整することにより分解能を高めることができる」と書かれています。これも実際の電波が理想的な円錐形パターンを描くことはなく、アンテナ方位の中心付近が最も強力で左右に広がっているにつれて電波強度が弱くなることこ確認できれば、容易に理解できる話です。

4.操作性
 MK−13は現在の目から見ても非常に優れた操作性を有しています。
 目標捜索段階では「広域走査(Main Sweep)」で比較的広い範囲を観測します。目標エコーを得ると、操作員は「レンジライン」と呼ばれる一種の水平カーソルを操作し、それを目標エコーの底部の一致させます。そこで操作員は「通常精密走査(precision sweep-normal)」に切り替えます。するとBスコープの表示は「レンジライン」を中心にした幅2000〜4000ヤードの範囲になります。この画面上で操作員は表示範囲を微調整し、目標エコーがレンジライン上にピッタリと位置するように操作します。同時に方位盤追跡員はMK−13の遠隔端末を見ながら目標エコーがBスコープ中心のベアリングライン上に位置するように操作します。レーダー操作員と方位盤追跡員の呼吸がピタリと一致し(このあたりの呼吸にはそれなりの熟練を要するかも知れない)、目標エコーがBスコープ中心にピッタリと乗せることができれば、目標までの方位と距離を精密に測定することができます。
 これらの操作を完璧に遂行するにはそれなりの熟練が必要なことは想像できますが、少なくとも神業的な技量を必要とするものではないことは確かでしょう。

5.弾着観測
 資料を読み返してみましたが、「距離xxxヤード以内の水柱は観測できない」という記述はありませんでした。
 資料によれば、MK−13は方位計測と距離計測の両面において弾着観測に有効利用できる、とありました。そして「レーダーによる弾着観測はすべての射程距離範囲において、そしてもちろん視認距離に関係なく、精度と信頼性を保証する」とも記載されていました。資料では誤差3ミルの水柱をレーダー上で観測した例が図示されており(図20G18)、MK−13を使えば数ミルの弾着誤差を読み取ることができることを暗示しています。

以上です。
(文章の一部を修正/追記しました)