History Quest「戦史会議室」
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タイトル Re^3: 1940のフランス軍の戦略構想
投稿日: 2005/02/02(Wed) 06:28
投稿者ごちょう

>ヴェルサイユ条約により制限された独陸軍の兵力では、防
>御に徹して長期戦で勝利するのは不可能で、積極的に攻撃
>を行って短期戦を行うことでしか勝利を収められないとい
>う考えがあったからだと思われます。

小生の意見はちょっと違います。

ドイツの「短期決戦思想」はヴェルサイユ体制から始まった
思想では無く普仏戦争当時からの「ドイツの基本戦略」で大
モルトケの戦略思想にも見られます。

具体的には大モルトケは要塞建設を否定してその予算で国内
の鉄道網を整備し、その輸送力でもって軍の「戦略的機動力」
を上げ、戦争に勝利したのです。つまりドイツにとって「短
期決戦思想」は言わば「伝統」なのです。そしてWWIのドイツ
戦略構想も「まず全力を持ってフランスを叩き、返す刀でロ
シアに向かう」と言った「鉄道の機動力を利用した短期決戦
思想」でした。

これはヨーロッパの中央に位置するドイツとしては必然的に
「二正面作戦は避けられない」と言った、地政学的要因が大
きいからだと言われています。結局、ヨーロッパの内線に位
置するドイツとしては二正面作戦を防ぐ意味でも「ドイツは
地政学的に陣地防御には向かず、内線の利を生かして機動戦
を行うの効果的」と言う結論に達したのでした。そして大モ
ルトケは当時のハイテク輸送網であった「鉄道」に目を付け
るのです。

つまりこれがドイツの「短期決戦思想」の原点なのです。こ
れがヨーロッパの西に位置するフランスとの大きな違いでしょ
う。

>そのために、ミュンヘン会談等が行われたというのが、私
>の理解です。

結局これも「単純にそうは言えない」と思われるのですが。

まず、所謂ヒトラーの「脅迫外交」に関してですが、確かに
ドイツの再軍備はヨーロッパにとっては脅威だったでしょう。
しかしあの当時のドイツの軍備は「張子のトラ」以前で、と
ても戦争できる状態では無かったのです。もし英仏がその気
になれば「一撃」で降伏してしまうような状態だったと考え
ます。仮にポーランド侵攻時であっても、大方の見方は当時
軍事大国であったポーランドがああもあっけなく降伏すると
は思われていなかったのです。そしてナチスドイツの「電激
戦」に世界は「サプライズ」するわけですね。

また1940年の対仏戦の当時でさえ「フランスを降伏させる事
は不可能」と当のドイツですらそう思っていました。これは
初期の対仏戦の目的が「ルールを英仏から守る」が主眼で「
フランス侵攻」を前提にした計画では無かった事からも伺え
ます。ドイツ参謀本部としては「ベネルクス三カ国を占領し
てフランスとの緩衝地帯にする」程度の計画だったのです。
だからこそ参謀本部は「作戦発動を渋った」のです。

結局、1940年であってもドイツ軍の実力は「この程度」なの
です。まともに対英仏戦などできるはずがありません。その
ドイツにイギリスが「自国の軍備が整うまで独をあやそう」
などと考える筈が無いと考えます。時間はドイツの軍備を増
強させ、より強力にするだけでしょう。

しかし「世界大戦」となれば英仏も「無傷」ではいられませ
ん。そしてせっかくWWIから復興しつつあるヨーロッパが再び
荒廃することは明らかです。つまり「そのリスク」を英仏は
引き受けるだけの自信がなかったのです。そして経済的には
かなり復興したものの、WWIにおける両国の「人的損失」は未
だ完全に癒えてはいなかったのです。

また別の要因として「新生共産ロシアの脅威」と言う要因も
あります。当時のヨーロッパ各国はナチスドイツよりロシア
の「共産革命の拡大」を一番の脅威に感じていました。現に
フランスでは共産勢力が議会で一大勢力になっています。そ
して英仏の東欧諸国との攻守同盟も主眼はドイツでは無く「
ロシアの共産革命からヨーロッパを守る」防衛国としての意
味あいが強いと言われていますね。ですので仮に「世界大戦」
に勝利したとしてもヨーロッパが荒廃し、結果、共産革命が
ヨーロッパ全土に吹き荒れるような事態は「絶対に避けたかっ
た」のです。そしてそのリスクを犯してまでナチスドイツを
打倒する必然性は「当時の英仏」には無かったのです。

いろいろ書きましたが、結局フランスのグラントデザインと
いったテーマも「純軍事的な問題だけでなく経済や政治的要
因を加味しないと分からない」と言うのが小生の現在のスタ
ンスです。

むしろ「政治的要因」方が大きいのでは?


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