History Quest「戦史会議室」
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タイトル Re: イタリアのドイツ傾斜と海軍拡張
投稿日: 2005/05/06(Fri) 21:29
投稿者山家

 まず、具体的にその年に起きた事件等とその影響を編年体で検討しながら、伊が対英戦をどこまで真摯に検討し、軍備を整えていったのかを検証しませんか。そうしないと見当外れの結論に行きかねません。昔、日本海軍が陸上攻撃機を整備したのは、来るべき対英戦に備えるためだった、という説をネットで読んだことがあります。マレー沖海戦を例に挙げて、主張されていました。これは正しいといえるでしょうか。私にはトンデモ説にしか思えませんでした。

> お説のとおりで、イタリアはこのように日和見をしながら次第にドイツに傾斜していったものと思います。かつこの日和見は、国家理性の立場からして、全く合理的だと思います。(ワタクシ的には、当時の戦略情勢からしてイタリアがドイツに傾斜していったことこそ心理的奇跡だ、と思っています。よっぽど英仏の覇権にフラストレーションがたまってたんでしょうか?)
>
> 但し、英独を天秤にかけるからには、対英戦を想定した軍備を整備することは必要なはず(それをサボるような軍官僚は給料泥棒でしょう)なので、30年代後半のイタリア海軍拡張が対英戦に備えて行われた、という私の意見は変わらないのですが。

 まず、伊の海軍整備から検討したいと思います。

 伊の戦艦建造・改装が、独の再軍備と連動したものか、または対英戦のためかですが。学研の「世界の戦艦」によると、伊がヴェネト級戦艦2隻の起工を発令したのは1934年10月のことです。更にカブール級戦艦2隻の改装を発令したのは1933年のことです。これらは1931年12月に仏で起工されたダンケルク級戦艦に対抗するためのものだそうですが、実際問題として独が再軍備を宣言したのは1935年3月のことですから、独の再軍備と、伊のヴェネト級戦艦起工等はほぼ無関係で、対仏対抗なのはその規模からしても明らかなことだと思われます。何しろ1932年当時、伊は弩級戦艦4隻を保有しているのに対し、仏は弩級戦艦3隻、超弩級戦艦3隻を保有し、更にダンケルク級戦艦2隻を建造していたのです。伊の戦艦整備は仏の保有戦艦にぎりぎり対抗できる程度です。

 更にヴェネト級戦艦2隻が起工されますが、それは1938年のことで、ドリア級戦艦2隻の改装も1937年のことです。これは1935、36年に起工された仏のリシュリュー級戦艦2隻に対抗するためのものだそうです。時系列やその規模からも、この事実に間違いはないと思われます。従って、戦艦の建造・改装はほぼ対仏対抗のものと考えられます。そして、戦艦の建造・改装が対仏対抗であることから考えると、それ以外の艦種整備、例えば潜水艦整備が対英対抗というのは、私は首を傾げます。何故なら、海軍は一体のものとして整備されるものだからです。

 対英戦に備えた軍備を整える、と言われますが、白水社の文庫クセジュ「ムッソリーニとファシズム」によると、1936年から38年当時の世界の工業生産の内で伊が占める割合は2.7%、日本は3.5%ですから、伊は日本以下の工業生産力で軍備を整備していたことになります。幾らファシズム体制下で国民総動員体制にあっても、対英戦に備えた軍備は整えられないと思います。

 かなり長くなったので、伊の外交政策の変遷については、明後日以降にします(明日は拠所無い用事があるのです)。


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