History Quest「戦史会議室」
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タイトル Re^2: ドイツ第6軍は救えたか
投稿日: 2004/12/28(Tue) 20:06
投稿者山崎 雅弘
参照先http://www.mas-yamazaki.net/sixangles.html

ウィリー さん、こんにちは。

> こういう場合、救えた、の定義が問題でしょう。
> 第六軍の戦力を救出することを救えたとするか、
> 人員だけでも脱出できれば救えたとするのかによって
> 条件が全然変わってきます。

おっしゃる通りですね。私としては、コルスンの場合と同程度、つまり重装備を失っても兵員の半数以上を生還させられる状況を考えています。

> 1)案は正攻法です。が、2点考慮しなければなりません。
> 第六軍機械化部隊が早期に脱出作戦を実施して友軍戦線にたどり着けるか?

実は、ほとんど知られていないことですが(私自身も少し前まで知らなかった)、第6軍の機械化部隊のいくつかは、包囲環が完成するまでの数日間、ドン川の西岸に移動して、そこでソ連軍に反撃してるんですよね。ソ連軍の第26戦車軍団がカラチの橋を確保するのは11月22日の午前6時ですが、ドイツ軍の第24装甲師団は11月20日にスターリングラードを出発してカラチへ到着、21日に橋を東から西へと渡って北西へと進出し、第4戦車軍団に小規模な反撃を行っています。同師団はその後、第6軍によって包囲環の内部へと呼び戻され、11月23日にペスコヴァトカでドン川を再渡河して(西から東に)、11月27日にはスターリングラード市内へと舞い戻りました。また、同師団の他にも、第16装甲師団の一部は11月20日、第3自動車化歩兵師団は11月23日に西への転進を命じられており、第16装甲師団の一部は第11歩兵軍団のドン川渡河撤退(第6軍本隊方向への退却)を支援するために、実際にドン川の対岸で防御戦闘を行っていました。
南部の第29自動車化歩兵師団も、第4装甲軍によって包囲環の内部へと転進させられましたが、装備兵力の充実度と機動力を考えれば、ニジネ・チルスカヤ方面への脱出は充分可能だったと思われます。

> 2)案。兵員を出来るだけ多く脱出させるのならこの案を推したいところです。
> たとえ戦力としての第六軍は脱出できなかったとしても、
> コルスン包囲陣よろしく、いくらかの兵員は脱出できるでしょう。
> 問題は、脱出作戦が始まっている最中に(この時点で脱出方向が分かる)
> 救援部隊が第六軍の所までたどり着けるかどうかです。
> 史実ではまず救出部隊が攻撃に出て、その後第六軍が脱出する手はずでした。
> その手順を逆にしただけの作戦が本当に成功するのかどうか?

救出作戦の手順としては、コルスンの場合と同様でよかったと思いますよ。マンシュタインが回想録で書いているように、チル川方面から進出してカラチの橋を奪うことができれば、成功の可能性は飛躍的に高まると思います。

> 私は、どちらの場合でも、パウル・カレルの書く
> コルスン戦のような結末になるだろうと思ってます。

私も、学研さんに送った記事で、コルスン戦との対比でこの問題を検証しました。地形的にもかなり似ている部分があり(第6軍にとってのドン川が、コルスンでのグニロイ・ティキチュ川だったと思います)、脱出作戦の具体的なイメージを考えるにはよい材料だと思います。

脱出部隊と救出部隊との兵力的なバランスという問題については、史実の第6軍救出作戦では、救出部隊は装甲2個軍団(第48、第57)、脱出部隊は装甲2個軍団と歩兵4個軍団(組織上は第14装甲軍団と第4、第8、第11、第51歩兵軍団ですが、第14軍団には装甲師団3個と自動車化歩兵師団3個がいるので、実質2個軍団として計算)の計6個軍団でした。救出部隊と脱出部隊の兵力比は、単純な軍団換算で「2対6」です。一方、コルスンでは、救出部隊は装甲2個軍団(第3、第47)、脱出部隊は歩兵2個軍団(第11、第42)という「2対2」の兵力比でした。もし、第6軍から第14装甲軍団を包囲環の外に脱出させれば、救出部隊は装甲4個軍団、脱出部隊は歩兵4個軍団で「4対4」となります。

また、救出作戦に要する燃料と弾薬についても、第14装甲軍団が包囲環の中にいるとの外にいるのとでは、包囲環内部の補給状況に大きな違いが出たものと考えられます。装甲部隊は、燃料と弾薬があって初めて戦力を発揮できる兵科ですが、史実のように包囲環の中で枯れさせてしまっては、せっかくの装備戦車が無駄となってしまいます。歩兵部隊の方も、装甲部隊用の燃料や弾薬分を(輸送機の積載スペースという形で)振り向けてもらえるので、各大隊が受け取れる物資の量は増加できたはずです。「補給切れで戦闘力と移動力が半減したユニット2個」よりも「戦闘力と移動力そのままのユニット1個」の方が、おそらく脱出作戦では有用だったことでしょう。

3)案は、脱出した第6軍と救出部隊の退路が、ドン側の南岸になってしまうという点がネックになるかもしれません(チル川の戦線が放棄されていれば、ドイツ軍がカラチ辺りでドン川を西に渡河するのは無理でしょう)。ツィムリャンスカヤで西岸に出られたらよいですが、そこで渡河に手間取っているうちにロストフを取られる可能性があります。


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