History Quest「戦史会議室」
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タイトル Re^3: イタリア海軍の仮想敵
投稿日: 2005/05/04(Wed) 23:18
投稿者山家

 そろそろ新しくスレッドを立て直す時期が来つつある様な気がしますが、今回はこちらで続けます。

 私もこの辺りは資料不足です。図書館で資料を検索しようにも近くの図書館が休館日で利用できず、ネット情報で手持ち資料の不足を補う有様なのでどこまで正確な情報なのか、今ひとつ確信が持てないのですが。

> 1930年代後半のイタリア海軍の戦略コンセプト(対英仏)は、
> (1)イタリア水域は水上艦と空軍力で守る、
> (2)長距離型潜水艦で外洋で通商破壊をする、
> だったのではないか、と思います。
> 以下、理由です。
>
> 1.まず、イタリア海軍の戦力は確かに英国に大きく劣りますが、ドイツが海軍再軍備(英独協定では英国の35%まで可)をやるので、英海軍は全力を地中海に投入することはできない、という戦略判断があったはずです。

 まず、1930年代に伊と独は本当に蜜月関係だったのでしょうか。ネット情報で裏を取っていませんが、1943年にファシスト党の重鎮でありながら、反ムッソリーニに回ったグランディ元駐英大使に関して調査したところ、伊が独の墺併合に反対したり、エチオピア戦争のときにエチオピアに独が援助を与えたり、とどうも蜜月関係とはいえないように思われることが出てきました。その一方で、英仏は最終的に伊のエチオピア併合を認め、1938年4月には英伊協定を締結する等、1930年代に英仏は伊がアルバニアに侵攻するまで、かなり伊に好意的な政策を採っています。1930年代、伊は英仏と独を天秤に掛けてそれぞれに逆の側に味方するということで、自国の利を図る外交をしていたように思われます。

 伊は最終的に1940年6月に独側に立って参戦しますが、これは仏が事実上崩壊した後のことで、英も遠からず独に屈伏して戦争が終結するだろうから、戦後の発言権を確保するためには参戦しないといけない、とムッソリーニが判断したためです。もし、独仏戦が膠着し、英仏有利に戦局が流れていたら、伊は英仏側に立って参戦した可能性さえ、かなりあるように思われます。

> 2.イタリアは30年代後半に弩級艦4隻の大改装をやり、速力を27〜28ノットに向上させました。これはクイーン・エリザベス級よりも4ノットばかり速い速力です。もちろん砲力・装甲は弱いですから、殴り合いになったら圧倒的に不利ですが、「自分より強いのが出てきたら逃げてしまう」ことができます。

 確かに伊の改装戦艦は、英戦艦から逃げることはできます。しかし、問題が一つあります。それは、魚雷を搭載した英重巡洋艦複数には、伊の改装戦艦では逃げることも、勝つこともできないという点です。砲力・速力共に伊改装戦艦に優る比叡でさえ、第三次ソロモン海戦で米重巡洋艦にズタボロにされました。米重巡洋艦が魚雷を搭載していれば、比叡・霧島共に沈んでいたでしょう。伊の改装戦艦の実力は、比叡以下で、英重巡洋艦複数には勝てない程度なのです。

> 3.実際に英戦艦が出てきたら、航空攻撃で叩くことが(額面上は)できます。イタリアは30年代後半に主力爆撃機としてSM79を数百機配備しましたが、これは雷撃や対艦爆撃のできる陸攻みたいな機体です。これの行動圏内に敵水上艦艇が長時間とどまることはできないから、イタリア水上戦力(基本的にフリート・イン・ビーイング戦術をとります)と加えれば、イタリア近海及び北アフリカ交通路を守ることは可能である、と。

 ここには同意します。

> 4.守勢一方の海軍力では戦略的に勝てませんし、抑止力としても不十分なので、攻撃力が必要です。そこで、長距離型潜水艦の大西洋での通商破壊戦を攻勢的に使います。

 ここで、私が引っ掛かるのが、英国領ジブラルタルの存在です。独Uボートが大西洋と地中海の間を行き来する際、ジブラルタルの航空機や対潜艦艇のためにかなりの損害を受けた、と何かで読んだ覚えがあるのですが、これは私の記憶違いでしょうか。実際問題として、ジブラルタル海峡の最狭部は10数キロしかなく、ここに濃密な対潜哨戒網を敷かれると、伊潜水艦の大西洋進出はかなり困難です。史実で大西洋進出を図った伊潜水艦が、ここでどのような損害を受けたか、私としてはかなり気になりますが、それに関する資料を私は知りません。

> 5.では燃料油はどうするか。(ルーマニアとかソ連とかに頼るのは「希望」にすぎないでしょう。)この点はイタリアは「考えてなかった」のではないでしょうか。というより、「まさか本物の戦争になるとは思っていなかった」のではないでしょうか。「英国との戦争はしたくない。しかし領土は拡張したい。地中海で火遊びをすれば英国との関係が緊張するから、戦備は対英戦に備えなければならない。この戦略環境でこれだけの軍備を備えれば、英国もむりやり戦争にはするまい。」と。ムソリーニはぎりぎりまでヒトラーに「イタリアは戦争準備ができていない」と言いぬいていますし、イタリア軍部も最後まで参戦に反対していますし。
> 6.(ホントの蛇足ですが)イタリアに限らず、ドイツにしても日本にしても、海軍軍備を拡張するときに、燃料油の心配をした形跡がないのは何故なのでしょうね?どっちも、仮想敵は石油の仕入れ元ですのにね……

 5,6ですが、結局のところ、(少なくとも海軍は)三国とも英国と戦うつもりはなかった、ということだと思います。伊の対仏戦計画は、英の中立が大前提ですし、日の対米戦計画も、英仏等の欧州諸国は中立を保っていることを前提に作戦が立案されてきました。上に書きましたが、伊は自分から英国に宣戦を布告しますが、その際には、もうすぐ独勝利で戦争が終わりそうだから、その尻馬に乗ろうという意図があり、英国が屈伏せず、長期戦になるとムッソリーニは想定してませんでした。


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