History Quest「戦史会議室」
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タイトル 欧州海軍はいかなる任務を果たすべきか
投稿日: 2004/06/24(Thu) 23:36
投稿者ウィリー
参照先http://homepage3.nifty.com/minea/

空母ツリーがあまりに巨大になりすぎたので
新規に立てることにしましょう。

・欧州海軍はいかなる任務を果たすべきか。

空母の必要性を論じるならまずここを論じなければ意味がありません。

陸空軍に予算を喰われるから〜というのであるならば、
逆にもっと陸空軍に予算を回せばいい、という考え方も成り立ち得ます。
任務を果たし得ない中途半端な戦力を持つぐらいならば、
いっそその戦力がないほうがよい、というのは一つの考え方ですから。

しかし、これを論じるのであるならば、やはり

国のあり方>軍のあり方>軍のドクトリン>軍備計画

この線をはずすわけにはいきません。
そして、「史実の流れ」から検討するにせよ、
どの水準で検討するかによって検討の意味が全く変わってきます。
「国のあり方」を論じるのか、「軍のあり方」を論じるのか
「軍のドクトリン」の優劣を問うのか「軍備計画」とドクトリンの
整合性について論じるのか、ここが明確でなければ論じようがないのです。

もちろん、”海軍が”いかなる任務を果たすべきか、を
問うているのですから、「軍のあり方」の水準での話です。

この限りで、とりあえず主要大陸国4カ国を見てみましょうか。

1)ソ連の場合

一番わかりやすいのはこの国でしょう。
仮想敵は陸から攻めてくるのですから、陸で勝てれば海で負けても問題ないのです。
逆に陸で負ければ海でいくら勝っても全く意味がありません。
しかし、陸での勝利のためには陸上で戦力が集中出来なければなりませんから、
沿岸を防備して防衛線を短縮できることは必要です。
おまけに革命の余波でまともな海軍が備わってないのですから、
とりあえず沿岸海軍を作らなければ話になりません。

ここから、海軍の任務はあきらかです「海岸線の防衛」となります。

2)イタリアの場合

イタリアの場合、最重要の任務は「アフリカとの通商路の確保」
こうなる事は明らかでしょう。海の向こうに植民地を抱えてるのですから。
もし、アフリカとの通商路が確保できるのであれば、次の段階である
「地中海の制海権確保」=「地中海を我らが海とする」ことが
可能な戦力を保有するべく手を打つべきです。
さらに余裕があれば地中海の外へも目を向けることが出来るでしょうが
そのためにはスエズ運河かジブラルタル海峡の制圧が必須です。
おそらく、イタリアが超軍事国家になってイギリス打倒のために
国家の総力を傾けるのでないかぎり、第三段階は無理でしょう。

結論として「最低限通商路の確保:可能なら地中海の制海権確保」となります。

3)フランスの場合。

ある意味一番立場が難しいのがフランス海軍でしょう。
植民地はアフリカやアジアに広がっているので
可能であるならばこれら全体のシーレーン防御を行いたいところです。
が、隣国が大陸軍国ドイツなので軍事費の大半は陸軍回りに消えます。
結果、海軍への予算は削られるでしょうが、それでも必要最小限度の
任務は果たさなければなりません。

とりあえず、最低限アルジェリアへの通商路は確保出来ていないと
まるきり孤立させられます。
ビスケー湾からモロッコへの通商路も確保したいところ。
仏領赤道アフリカ全域へのアプローチが可能ならまあまあでしょうが、
仮想敵がイギリスであればこの程度でさえ欲の出し過ぎでしょう。
仮想敵をイタリアに置くなら、北アフリカへの補給が確保できれば
イタリア本国を陸軍で襲う方が手っ取り早いのも事実です。

結論として、海軍の任務は「アフリカ航路の確保:余力があればドイツ海軍的な遊撃戦用戦力を保持」
ぐらいになるでしょう。
イタリアが地中海制覇を目指すならアフリカ航路の確保がそのまま
西地中海の制海権確保と同義になるはずです。

4)ドイツの場合

まず最初に必要な任務はあきらかです。
「バルト海での沿岸防衛」
これが出来ないでは話になりません。
が、これを可能にするだけの戦力が存在する場合に、
いかなる任務を与えるかは非常な問題があります。
仮想敵をどこに置くかで全然意味が変わってくるのです。
仮想敵をフランスに置く限り海軍は何の役にも立ちません。
理論的にはイギリスが中立であればベルギーを海から迂回して
侵攻する事が可能になりますから、その種の強襲上陸能力を持つのも
一つの考え方です。が、常識を働かせると、このような場合
イギリスが参戦しないと考えるのはばかげてます。
結局、英国海軍相手に何が出来るかを考える必要がある
=その意味ではもっとも不幸な海軍と言って良いでしょう。

沿岸防衛のために、沿岸防衛用海軍を作ったところで
仮想敵が英国海軍であるために、正面から当たっては勝ち目がないのです。
なにか手品が必要です。そして、この手品の種が「海上ゲリラ戦」です。
ゲリラ戦の算術=攻撃側に対して防御側は10倍は必要=によって
圧倒的な数的劣勢を補うことで、イギリスがドイツ沿岸に投入可能な
戦力を引き下げて沿岸の制海権を確保する。
一種の間接的アプローチです。
そして、可能であれば、ゲリラ戦の経済学=攻撃側より防御側の方が経済的損耗が大きい=を用い、
経済的負担によってイギリスの戦闘能力を奪う。

結論として「遊撃戦による経済的消耗戦」ということになります。
戦争になった場合に敵に回す相手が悪すぎるのです。

−−−

ゲンガーさん宛のRES
基本的に私も欧州大陸国家の海軍の役割はその程度だろうと思います。ドイツ海軍についても、、バトル・オブ・ブリテンにルフトヴァッフェが圧勝出来るのであれば
U−Boatもビスマルクもグラフツェッペリンも全く不要だった可能性があるわけで、
極論すれば、イタリアを例外として「海軍なんて要らない」が結論になってしまいます。

海軍が必要であるイタリアだけが空母が必要であるのなら、つまり
「海軍」には空母が必要であるが、「海軍」が不要である国には
海軍が要らないから空母も要らない、というのが結論になりそうです。


−−−

以下山家さんへのRESとして。

>まず、私の考えは、史実を批判するのなら、史実の流れを前提に考えるべきであり、そうでないなら、最初からその旨を明らかにした上で、論ずるべきだということです。そして、史実で役立たなかったと非難するのなら、それに代わり実行可能な代案を検討すべきだということです。

史実とはなんぞや、ということを明確にしない限り
史実の流れという言葉には何の意味もありません。
よし史実とはなんぞや、という事に答えを出しても
それが誰にとっての史実なのかを明確に出来なければ
議論をするには何の役にも立ちません。
さらに、実行可能性を論じるのであるならば、
誰にとっての実行可能性かを明確にするのでない限り
何も言っていないのと同じです。

だから、私は、誰にとっての議論なのかをくどいぐらいに言うのです。
「欧州大陸国家」にとっての史実の流れも史実の流れです。
「欧州大陸国家海軍」にとっての史実の流れも史実の流れです。
「20世紀の技術発展」にとっての史実の流れも史実の流れです。
ほかにもこの件について発言権のある「史実の流れ」は存在するでしょう。
どの史実の流れを基準にするのか明確でなければ
史実の流れという言明それ自体が空疎でしかないのです。

「役に立たない」も同様。
誰にとって役に立たなかったのかが不明では
やはり意味のない言明なのです。

ともかく、上記の点をふまえて以下個別の点について。

>予算の問題ですが、

任務と予算とドクトリンを全部固定してしまえば
ほかの要素をどういじりまわそうとも最後の結論は不変です。
バラバラに論じる事自体が意味のないことです。
どれかは変更可能にしておかなければ
「結果は史実通り」に決まってますから議論の必要もありません。

>夜戦の問題ですが

輸送船が半日で港までたどり着けるなら夜戦を想定しないのも考え方です。
ですから、開戦後直ちに、いかなる犠牲を払ってでも
チュニスを確保するならそれはそれで見識だったでしょう。
夜戦は不可能だからそのときには逃げる。…輸送船は逃げられないから
全部地中海の埋め立てに使われる、そういう事も想像できなかったなら
一体イタリア海軍の将帥は何を考えて戦争計画を立てていたのでしょう。
むろん、短期に艦隊決戦を行ってイギリスの戦意を打ち砕くから
地中海航路の安全は考えなくて良い、というならそれはそれで
また一つの見識です。が、イタリア海軍は1940年を通じて
(つまり、重油がまだ多少は残っていた時期ですら)艦隊決戦を求めるより
逃げ回ることの方を選んでいた物です。

ここまでやっていることに一貫性がなければ軍備計画以前の問題です。
そして、やることに一貫性がないのなら、せめてオールラウンドに
任務がこなせるような訓練ぐらいは出来ていなければ話にならないのです。

>そして、制空権の確保に空母は不可欠とのことですが、

私はそんなことを言ってはいません。
まともな艦隊防空には空母が不可欠だと言っているだけです。
水上艦艇による制海権確保をあきらめて、
陸上機のみで制海権を確保するつもりなら全く話は別です。

が、私は海軍に可能な選択の話をしているのです。
まともな海軍航空隊が存在しているのであれば、
陸上航空隊による沿岸の制海権確保も可能でしょうが、
海軍航空隊がないのに一体どうやって「海軍」が
陸上機で制空権を確保出来るというのでしょうか。

マルタ島を巡る補給戦は、まさに「制空権即制海権」の実例と言う方が当たっているでしょう。
制空権を確保できない海域に水上艦艇を何隻送り込んでも
有人標的にしかならないのです。

>それから、空母ですが、

下の議論とこの議論とはかみ合っていません。
英国海軍は空母を艦隊の中に繰り入れて運用していましたが
べつにそれで不具合があったわけではありません。
第一、どうして欧州海軍の空母が敵陸上機の威力圏内で活動する必要があるのでしょう。
両軍とも〜あるいは敵側は〜空母以外に航空支援の得られないような場所でこそ、
欧州海軍の空母はもっとも役にたつであろうというのに。

>それから、空母が有った方がいいのは、

空母の予算が海軍航空隊に振り向けられるのならその議論もよろしいでしょう。
空母の予算が戦艦建造に回されるのであれば全くの無駄遣いです。
敵制空権下の水上艦は的でしかない、その実例ならいくらでもありますが、
そうでなかった実例を上げるのはきわめて困難なのです。

−−−

それで、山家さんに一つお聞きします。
いかなる「史実の流れ」が(つまり、誰にとっての史実の流れが)
「まともな海軍航空隊」を「欧州大陸国家」に生み出すことが出来るというのでしょうか。
英国海軍にだって陸上基地から発進するまともな能力を持った海軍航空隊なんてなかったというのに。


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